抗がん剤治療を続けていた父が、副作用の辛さに耐えられず治療をやめる選択をしてから5ヶ月がたった。体は元気で、調子も良い。
しかし癌はどんどん広がり大きくなる。
発見された時にはすでに大腸から肺、肝臓と転移のある状態だったので手術の適応ではなかった。
体の調子はいいのに、最近咳が止まらないことや、なんともいえない体の痛みが時々あるとの事だ。
一年半前に父は、何を思ったのか病気の告知は僕から聞きたいとの事だった。悪いものであることは悟っていたのだろう。僕が子供の頃、父に頼ることは許されなかったので、立場が逆転した今ついつい頼るんじゃないよ、甘えるなという気持ちが瞬間的に生まれる。もちろん我に帰り、彼の望み通り医者から聞いた事をできる限り丁寧な言葉で伝えた。
あの時僕は、そう、言葉を選ばずに言えば父に死の宣告をしたのだ。
さて今回、家族会議が行われた。
その内容は一時中断している抗がん剤の再開を勧める医者に。NOを伝えるためのものだった。伝えた後、主治医はそれを受け入れこれからの父の体の見立てを話してくれた。
僕は今くらい元気な体でどれくらい生活できそうなのか聞いてみた。
主治医は1年と教えてくれた。
診察室を後にして父と母は僕にありがとうと言っていたが、死神役の僕に何の感謝を伝えていたのかいまだにわからない。
あれから何週間かたつ。
紹介したがん患者の会は、行かないことを父は選択した。実は少し腹が立った。おそらく僕は当事者の会に繋いで自分のやるべきことは全てやったと納得したいんだろう。そう言う形で死にいく父を受け入れたいのかもしれない。
そんな父の体は今のところ問題なく、一方変化も見られる。
新しい夫婦の関係を築いているようだ。
「隣に来て座っとけ」と母に言い、いっときも離れない。
僕は無力を確認する。あの時も、今でも。
